ディズニーランドが教えてくれた
「お客様を大切に想う気持ち」


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加賀屋克美・著 定価1470円(本体1400円+税5%) 2009年1月10日初版発行



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まえがき もくじ 本文より




まえがき



  まえがき

みなさん、こんにちは! 加賀屋感動ストアーマネージメントの加賀屋克美です。どうぞ、よろしくお願いします。

この本を手にとって、「あっ、加賀屋がまた本を出した!!」と気づいてくれた方もいらっしゃると思います。
2005年7月に出版した前作『働くことの喜びはみんなディズニーストアで教わった』(こう書房)は、ディズニーの物販に関するビジネス書であると同時に、日本のディズニーストアで勤務しながら、私の夢であった「本場アメリカのディズニーワールドで勤務する」の実現をめざした、夢への挑戦記。
「商品を売るときに大切なことはなにか?」、そして「働くことってなにか?」について、日米のディズニーストアで勤務しながら学んだことをまとめ、さらに「夢を実現するために必要なこと」、なかでももっともみなさんに伝えたかった「あきらめないことの大切さ」について書きました。

そして今回の本では、ディズニーランドおよびディズニーストアのキャスト(従業員)として経験・体験したお話ではなく、私が「ゲスト(お客様)」としてキャストさんから受けた「感動のサービス」や、素晴らしい接客をしているキャストさんを見て「感動したこと」「嬉しかったこと」などから、「お客様のことを大切に想う」とはどういうことかをテーマにまとめてみました。
「お客様を大切に想う気持ち」をディズニーはどのように表現しているのかをお話しすることで、よりお客様に喜んでいただけるサービスのお役に立てればと思います。

それでは、いってみましょう!
私が体験した、ディズニーで受けた感動のサービスへ!!



まえがき もくじ 本文より




目次



第1章 想いを伝えるにはまずコミュニケーションから
小学生の心に仕事への憧れを抱かせたディズニーランド
   未知のテーマパーク、日本上陸
   ここは本当に遊園地なの?
   小学生の僕らもお客様扱いしてくれる!
   将来の夢は、ディズニーランドのお兄さん
何気ない会話の中から要望・希望をつかみとる
   卒業遠足でディズニーランドへ
   残りはあと1時間! ラストスパートだ!!
   なんのために「声」を聞くのか
お客様が本当に求めている答えを探す
   この場所への到着時間まで教えてくれた
   15時のパレード、何時ですか?
   どんな答えを思い描いているか
   お客様をよく観察し、推測しよう
お客様のことをもっとよく知るために
   今日は、なにかのお祝いですか?
   すぐに写真とケーキを用意して
   目の前のお客様にいましてあげられること
   言葉のキャッチボールを繰り返す
ルールを守りたくなる魔法の言葉
   なんで「ありがとう」なんだろう?
   お客様は「協力」してくれている
   やってくれて当たり前ではないんだ

 コラム  隠れミッキーを知っていますか(1) 遊び心がファン心理をくすぐる
第2章 大切に想う気持ちを「かたち」にかえて
ポスターに記された共感できるメッセージ
   やっと会えたね
   何時間もの「旅」をしてやってくる
   お客様の「気持ち」や「想い」をそのままに
お客様の「期待」をどれだけ大切に想っているか
   少しでも早くディズニーランドへ行きたい!
   あちらこちらで繰り広げられる作戦会議
   「安全」で「安心」で「楽しい」イメージを積み重ねてきた
   持たせた期待を裏切らない
   期待に応えてあげるだけでは当たり前
当たり前のことだからこそ徹底的にこだわる
   ディズニーランドが1番だと思う理由
   お客様は時計を見ながら待ちわびている
   少しの遅れが期待や楽しみをぶちこわす
禁止する伝え方 お願いする伝え方
   お客様に「ダメ」といわない
   楽しい思い出を壊さないために
   より気持ちよく伝えられるように
ショーの一部になってお客様と一緒に楽しむ
   マイクパフォーマンスで気分を盛り上げる
   「人の力」が感動を倍にする
   すべての環境を整えられるのは「人」だけ
「本番」をより楽しくするためのストーリー
   ディズニーランドが見えてくると
   電車を降りたら、そこからディズニー?
   事前にメッセージやストーリーを伝えることで
   ディズニーランドの外にも余韻を残す
「転ばぬ先の杖」があるから安心できる
   どこにクルマを停めたかわからない!
   時間がわかれば場所もわかる
   少しでもお客様の助けになるために

 コラム  隠れミッキーを知っていますか?(2) 新たな発見の喜びを
第3章 大切に想う気持ちをお客様に重ねて
「基本」の上の「応用」がクオリティにつながる
   買ったばかりのチケットがびしょびしょに
   とっさの行動がシナリオを楽しく書き換える
   自分たちの仕事にとってもっとも大切なことはなにか
あえて「売らない」ことも大切なんだ
    お土産に風船を買って帰りたい
   風船は飛行機の中に持ち込めないから
   売っておしまいではないんだ
お客様を思いやることで自分も満たされる
   バイクの鍵がない!
   バイクに貼り紙? もしかして!
   お客様への気遣いと共感の言葉
   一緒の気持ちで心配し、喜ぶ
そこにお客様がいるから最後まであきらめない
   突然の雨、ショーは中止か?
   ステージの上はお掃除のキャストさんでいっぱいに
   いま目の前にいるお客様の笑顔のために
お客様に気持ちが伝わると
   ディズニーランドの出口で
   満足されたお客様は振り返る
   最後までしっかりお見送りをする

   あとがき



まえがき もくじ 本文より




[第1章 想いを伝えるにはまずコミュニケーションから]より



小学生の心に仕事への憧れを抱かせたディズニーランド



◎未知のテーマパーク、日本上陸

まずは簡単な自己紹介も兼ねて、私が初めてディズニーランドに出会ったときのことからお話ししたいと思います。

あれは、私が小学校6年生の頃。当時から勉強は大の苦手で、好きなことといえば鉄道と遊園地の乗り物に乗ることでした。
当時、いつも一緒に遊んでいた友達のひとりに、家が酒屋さんの子がいました。たぶん、お酒の販促用に業者さんから配られたものだと思うのですが、彼はよく地元の遊園地のタダ券を持っていて、それを私たちにもくれました。なので、ヒマさえあれば仲良し4人組で遊園地へ行っていました。

私の乗り物好きはこの頃からで、お気に入りのジェットコースターを何度も繰り返し乗り続け、係員のお兄さんに
「何回乗れば気が済むんだ!」
と呆れられるほどでした。
「だって、おもしろいんだもん!」
と答える私を、お兄さんは冷たく鼻で笑うだけ。でも、そんなことなど気にせず、何度も何度も乗り続けたのはいうまでもありません。
この頃から私は、好きなことには徹底してこだわるタイプだったのです。

そして、私の人生に大きく影響を与える日がやってきました。
1983年4月15日、東京ディズニーランド開園。

「アメリカで有名なテーマパークが日本にやってきます」

テレビでは、これまでに見たこともないようなお城や乗り物、そしてキャラクターパレード等が紹介されています。それを見て私たちは話し合います。

「いつも遊んでいる遊園地とは、なんか違うぞ。外国が来たみたいだ」
「おばあちゃんのお姉さんがアメリカのディズニーランドへ行ったことがあるって。暗闇の中を走るジェットコースターがあるんだって。すごく怖いらしい」
「暗闇って? 昼に乗ったらどうなるんだよ!!」
「建物の中を走るジェットコースターだって!」
「えええっっっ!?」

いまでこそ日本中の誰もが知っている東京ディズニーランドですが、開園当初は情報も少なく、いったいどんなところなのか、よくわかりません。まさに、未知の世界でした。それだけに、いつもの遊園地仲間も興味津々です。

そんな私たちに、いつも地元の遊園地のタダ券をくれる酒屋さんの子から、ビッグニュースが飛び込んできました。
なんと、連日のようにテレビで大騒ぎしている、あの「東京ディズニーランド」の招待券が手に入ったというのです!!

そうして私はついに、いつもの4人でディズニーランドへ遊びに行くことになりました。

◎ここは本当に遊園地なの?

私の初めての東京ディズニーランド訪問は、午前10時頃だったでしょうか。まだオープンしたばかりで、そんなに混雑はしていないようです。
私たち4人の小学6年生は、ドキドキとワクワクで胸がはちきれそうです。
入場券を握り締め、いよいよ園内に入ります。
すると、入口の改札にいたキャスト(従業員)のお兄さんが、私たちの顔をしっかりと見て、満面の笑顔で挨拶をしてくれたのです。

「こんにちは! ようこそ!」
「?・・・・・・・・??」

私たちは無言のまま、ただただお辞儀をするだけでした。

ふだん、真正面から挨拶してくれるなんて、いつも仲がよい友達か、学校の先生だけです。小心者の私たちは、見知らぬ人に飛びっきりの明るい笑顔で挨拶されて、なんだか恥ずかしくなっていました。

いよいよパーク内に入場し、私たちは最初のメインストリートであるお土産屋さんのエリア「ワールドバザール」を、パークの中心にあるシンデレラ城に向かって歩いていました。
すると、風船をたくさん持っているお姉さんが、
「こんにちは、いってらっしゃい」
と、また私たちに笑顔で手を振ってきます。

「こんにちは」
「いってらっしゃい」
いつも近所のおばさんにいわれてるのと同じだぁ。
ここは本当に遊園地なのかなぁ?
乗り物の姿は見えないし、本当にジェットコースターはあるのかな?
お兄さんもお姉さんも、なんか優しく接してくれるし、変だなぁ……。

そのとき、私にはなんだか違和感があったのを覚えています。

いつも行っている遊園地は、中に入ればすぐにジェットコースターが走っているのが見えるし、入口の係の人が「こんにちは」なんていったりしない。それに、僕たちを子供扱いする。
「危ないから、下がって!(怒)」
なんて怒られることもしばしばです。
乗りたいのに動いていない乗り物も多く、係の人のいる小屋まで行って「動かしてくださーい」って頼まないと出てきてくれないし……。

でも、ここは……、なんだか違う!

小学生ながら、そんなことを感じ、少し戸惑っていたのです。

いまでこそ全国各地にさまざまなテーマパークがあり、笑顔での接客や心の込もったおもてなしを受けるのが当たり前のようになってきましたが、いまから約25年前、少なくとも東京ディズニーランドができる前までは、遊園地の従業員が笑顔でお客様に手を振るなんて、誰も考えもしなかったサービスなのです。

改札のお兄さんにしろ、風船のお姉さんにしろ、俺、会ったことないよなぁ。初対面だよなぁ。
なのに、こんにちはって……。なんか、すっごい笑ってたし……??

そんなことを思いながら歩いていると、友達がいいました。
「なんかオレら、偉くなったみたいな気分じゃね〜?」
友達も、ここはいままで行っていた遊園地とは違うと感じているようでした。

◎小学生の僕らもお客様扱いしてくれる!

さらにメインストリートを歩き、ちょうど真ん中くらいまで進んだところで、このあとどこへ行こうかとガイドブックを開き、4人で覗きこみました。
すると、またまた声をかけられます。

「こんにちは、なにかお探しですか?」

今度はお掃除のお姉さん……!

「えっ? あっ、あのぉ〜、どこへ行っていいのかわからなくて……」
「それなら、私が園内を簡単に説明しましょう。
ディズニーランドは5つのエリアに分かれていて、ここは18世紀のアメリカのエリア。お買い物をしたり食事ができますよ。
そのほかに、冒険の国、西部開拓時代の国、おとぎの国、未来の国があります。
私のおすすめとして、ぜひ乗ってもらいたいのは……」

お掃除のお姉さんの解説が続きます。

ここまで、園内に入ってたったの数分。なのにもう、3人のキャストさんが、子供だけで来ている私たちに声をかけてくれたのです。
そのうえ、私たちに対しても、親切に、丁寧に、対応してくれます。

や、やさしい〜〜〜!!

いつも行っている遊園地では、なんだか遊びに来た大人たちだけがお客様として対応されているようで、自分たち子供はついでというか、いつもそっけない対応を受けていました。そういう対応しか知らなかったので、遊園地ではそれが当たり前だと思っていました。

でも、ここは違う!

小学生の僕らでも、大人と同じようにお客様扱いをしてくれる!
それに従業員さんがみんな優しくて楽しそうで、元気いっぱいに仕事をしている!!

12歳の私は、そこにいたく感動したのです。

◎将来の夢は、ディズニーランドのお兄さん

そして、翌年。小学校の卒業式が近づいてきました。卒業文集を製作することになり、作文のテーマは「将来の夢」に決まりました。

将来の夢……。
自分はどんな大人になりたいか……。

考えていると、頭の中にディズニーランドに遊びに行った日の楽しい思い出と、ディズニーランドで働くお兄さん、お姉さんの姿がたくさん浮かんできました。
そのときに、私の気持ちは決まりました。

「大きくなったら僕は、ディズニーランドのキャストさんのようにニコニコ笑顔で元気に楽しい仕事がしたい!」

私が書いた将来の夢は「ディズニーランドのお兄さんになる」でした。

それから私は、お小遣いをためて何度もディズニーランドへ通いました。たくさんのアトラクションに乗って楽しむだけでなく、そこで働くキャストさんのお仕事を真剣に見て、自分がキャストになったときのことを想像するようになりました。

いつか僕も、あのキャストさんのように、お客様に笑顔で声をかけ、楽しそうに乗り物を動かすんだ。ぜったいキャストになるんだ……。
中学生になっても、高校生になっても、その思いは消えず、ついに18歳で念願のキャストになるチャンスを得たのです。

ただの乗り物が好きな小学生だった私に、働くことの素晴らしさを教えてくれたのは、ディズニーランドのキャストさんでした。
訪れるたびに、東京ディズニーランドという舞台でいきいきと楽しそうに働いていて、どんなお客様にも親切に、丁寧に、ニコニコと対応しているキャストと、その対応で笑顔になるゲスト(お客様)の姿を見て、あんなふうに働きたい、こんなところで働きたい、という憧れが、どんどん募っていったのです。
そこから、将来の夢を持つ楽しさ、大切さも学びました。

私は18歳で憧れだったディズニーランドのキャストになりました。
その後、当時は経営が別の会社だったディズニーストアに移り、海外研修制度(現在は廃止されています)を利用してアメリカのディズニーワールドでも働いたりしたのち(この頃のお話に興味がある方は、前作『働くことの喜びはみんなディズニーストアで教わった』をお読みになってくださいね)、いまは独立して小売業や遊戯施設の感動経営コンサルティングをしています。コンサルティングのテーマは「従業員とお客様が共感できる楽しい職場づくり」です。

その原点は、子供だった私にきちんと「大切なお客様」として向き合い、その「想い」を笑顔で見せてくれたキャストさんとのふれあいにあります。
ディズニーランドの「お客様を大切に想う気持ち」が、いまのコンサルタントとしての私の仕事につながっているのです。

お客様に憧れられ、ああいうふうに働きたい、こういうところで働きたいと思っていただけるくらいに「お客様を大切に想う気持ち」を、あなたの会社は持っているでしょうか。その気持ちを上手に表現できているでしょうか。
年齢や性別、人種や国籍、身体的なハンディキャップなどで差別することなく、すべてのお客様に対して同じように大切に想っているでしょうか。

売上への直接的な貢献が高くない子供客が大切に扱われていなかった当時、ディズニーランドは「子供でも、来園者は大切なお客様」と考え、大人と同じように丁寧に対応しました。
開園から25年が経ち、大人と同じように丁寧な対応を受けた当時の子供たちが、いまは自分の子供を連れて来園します。そうしたことの積み重ねがディズニーランドというブランドをつくっているのです。



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[第2章 大切に想う気持ちを「かたち」にかえて]より


お客様の「期待」をどれだけ大切に想っているか



◎少しでも早くディズニーランドへ行きたい!

羽田空港からディズニーランド行きのバスに乗車したときの話です。季節は夏、世間は夏休みの真っ只中でした。

前の日に福岡で仕事があった私は、朝一番の福岡発羽田行きの飛行機で東京に戻ってきました。私の家はディズニーランドのすぐ近くなので、羽田空港からはディズニーランド行きの直通バスに乗ると便利です。
時計は午前8時を少しまわったところ。眠い目をこすりながらバス乗り場まで行くと、バス停はディズニーリゾートに行くお客様たちでワイワイガヤガヤ、長い列ができています。

うぉ〜、すごい列だなぁ。
ま、バスは10分間隔で出ているし、急がなくてもいいかぁ……。

その日はとくに急ぐ用事もなかったので、私はのんびりと列のうしろに並んで待ちました。

まもなく乗車開始時間になり、列が大きく動き始めます。たくさんのお客様がどんどんとバスに吸い込まれていきます。
しかし、さぁ、あともうすぐで自分も乗れる、というところでバスは定員になってしまいました。

あぁ、やっぱりこのバスには乗れなかったかぁ。
まぁ、次のバスに乗ればいいや、すぐ来るんだし。

そんなことを思いながら目の前のバスを見送ろうとしていたのですが、なぜか、なかなかバスが発車しません。
どうしたのかなと見ていると、バスから降りてきた乗車案内のスタッフさんが、乗り切れずに次のバスを待っているお客様の列に向かってアナウンスを始めました。

「補助席が若干、空いています。補助席でもよろしい方は、このバスにご乗車いただけます」

そうです、乗車案内のスタッフさんが、バスの中にある空席を1席残らず数えていたのです。
すると、たくさんのお客様がいっせいに手を挙げ、交渉が始まりました。

「すいません、2人です! バラバラの席でいいから乗せてください」
「家族4人、全員補助席でもいいから、お願いします!」
「小さい子がいるので、先に乗せてもらえませんか?」

熱心に交渉しているお客様の姿からは「できるかぎり早くディズニーランドへ行きたい!」という心の叫びが聞こえてくるようです。そんな姿を見て、小心者の私は手を挙げることができません。
そうしてバスは、補助席までいっぱいの乗客を乗せて発進していきました。

◎あちらこちらで繰り広げられる作戦会議

10分待つと、次のバスが来ました。今度はバスを待つ列のだいぶ前のほうにいましたので、私も無事に乗車できました。出発前にはやはり乗車案内のスタッフさんが空き席を数え、補助席までお客様でぎっしり、1席たりとも空席のない状態で発車しました。

満員の車内は、異常な熱気に包まれていました。

「お父さんはバズのファストパスを取ってね。その間に子供たちはプーさんに乗って、お母さんはレストランの予約に走ってぇ……」
「お昼はここのピザを買って、食べながらパレード見ましょ。1時間前には並んでないとね」
「今日はゆうちゃんの大〜好きなミッキーさんに会えるわよ〜。あなた、絶対にディナーショーの予約取ってよ!!」

バスの中のそこここで、さまざまな会話が繰り広げられ、最終ミーティングで大盛り上がりです。
私の隣の席に座った中学生くらいの女の子は『ディズニーランド完全攻略本』と書かれた本を食い入るように見ています。本は表紙が破れ、何枚もの付箋が貼られています。

きっと、何度も何度も繰り返し見て勉強して、作戦を立てたんだろうなぁ〜。今日がいよいよ決戦の日ってわけかぁ。

この女の子がどれほどこの日を楽しみにしていたのかが、ぼろぼろの本からうかがえます。

バスに揺られて20分ほど経つと、進行方向右側にディズニーランドが見えてきます。それに気づいたひとりの子供が声をあげます。

「あっ! お城だ!!」

その声に反応した乗客たちはシンデレラ城を見ようと、ドドドドッとバスの中を移動したり、椅子から立ち上がったり。ぴったりと窓に顔をつけて、歓喜の声を上げている人もいます。
窓から見えるシンデレラ城の姿がだんだんと大きくなってくるにつれて、バスの中のテンションもいっそう上がっていくようでした。

◎「安全」で「安心」で「楽しい」イメージを積み重ねてきた

そしてついに、バスはディズニーランドへ到着。
バスを降りたお客様たちはみんな早足で、ディズニーランドの正面玄関へ向かいます。われ先にと走り出す人もいます。

そうしたお客様の姿を見て、私はいろいろ考えてみました。

ここまでさせるディズニーランドの魅力って、いったいなんだろう?
日本全国からディズニーランドをめざして遊びに来るお客様がいらっしゃる。
初めて来るお客様だけでなく、常連さんもたくさんいる。
なぜ、そこまでして来るのだろうか……。

そういえば、むかしディズニーランドで一緒に働いた香取君(『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』シリーズの著者。私の親友です)が、こんなことをいっていました。

「ディズニーランドができる前は、ディズニー社って映画屋だろ?
そんで、ディズニーの映画って、大人から子供まで、誰にでも見せることができるよね。子供に見せちゃダメとか、目をふさがなくちゃいけないシーンなんてないから、大人だって子供に安心して見せられる。
映画やビデオ、絵本でみんながよく知っているディズニーの世界は、安心で楽しい世界なんだよ。
それが現実の場にあるんだから、みんな“ディズニー”ってだけで安心で楽しくて、夢のある場所だと思うんだろうね」

香取君のいうとおり、たしかに「ディズニー」とつくだけで安心感がある気がします。ディズニーの映画、ディズニーの教材、そのほか、ディズニーが提供するものなら大丈夫、安心できる、と。

これは、私だけの感覚ではないと思います。
実際、私の母はとても心配性で、まだ中学生だった私の帰りが遅いと、いつもとても心配しました。でもディズニーランドに遊びに行っているときだけは、閉園間際まで遊んで家に帰るのが夜の10時や11時になってしまっても、「ディズニーランドに行っているから大丈夫」といっていました。

ディズニーは映画会社だった頃からずっと、安全・安心で品質の高いエンタテインメント作品や製品をつくってきました。そうして培ってきた実績が「ディズニーは安全・安心で楽しい」というイメージを多くの人の心に植えつけ、今日に繋がっているのでしょう。
ディズニーランドに行ったことがない人でも「いつか行ってみたい」と思えるのは、そのイメージがあるからだと思います。

◎持たせた期待を裏切らない

良いイメージは、そのまま期待になります。
そして、期待を持ったお客様が実際に訪れてくださったときに、期待以上のものを提供できると、そこに感動が生まれます。
逆に、せっかく期待してきたのに「思っていたのと違う」とお客様に感じさせてしまうと、普通以上に残念な気持ちを与えてしまいます。
イメージとは、とても怖いものなのです。

きれいな写真とともに豪華会席、大露天風呂付き……などと魅力的な文句が書かれた旅館やホテルのパンフレットを見て、どんな美味しいものが食べられるのだろう、大きなお風呂で思いっきりくつろぎたい、とものすごく期待して行ってみたら、料理もお風呂も写真とは大違いで、ぜんぜんたいしたことなかった……というようなこと、よくありませんか。
あるいは、テレビや雑誌で「すごく美味しい!」「究極の味!!」と紹介された、行列のできるラーメン屋さんで実際に食べてみたら、意外と普通の味だった……というようなこともよくあります。

事前に期待していた大きさと実際の大きさの間にズレが生じるとガッカリして、「もう2回目の利用はないな」と思ってしまいます。期待が大きければ大きい分、ガッカリの度合いも大きくなります。
実際は、最初から期待していなければ許せるレベルだったのかもしれません。でも、事前の期待があったばかりに、そのレベルでは許せなくなってしまうのです。これが怖いから、すべてにおいて「あまり期待するのはよそう」とまで思ってしまいます。

その点、ディズニーランドは期待どおりです。

パンフレットで見たとおりの真っ白いお城があります。雨が降ったあとや台風のあとでもお城はいつも真っ白であるように、すぐに手入れをします。
そしてテレビや雑誌で見たとおり、楽しい乗り物があり、パレードやショーでミッキーに会え、やさしいキャストのお兄さんお姉さんが迎えてくれます。
メンテナンスや天候の関係などで休止になるアトラクションやパレードもありますが、それはお客様の安全と、お客様に「期待以下のものを見せない」ためのこだわりの結果です。
それがディズニーランドなのです。

ディズニーランドは、いつでもお客様の期待どおりのものが提供できるよう、日々のメンテナンスを欠かしません。多少の汚れやクオリティダウンを「このくらいならいいか」と妥協する企業は少なくありませんが、ディズニーはこれをけっして許しません。
それが結果として、お客様の予想を上回るサービスとなります。だからこそ、また来たいと思っていただけ、高いリピーター率に繋がっていくのです。

◎期待に応えてあげるだけでは当たり前

自分がアメリカのディズニーショップで仕事をしていたとき、トレーナーのペギーおばちゃんから「エクシード(exceed)」という言葉を教わりました。

「KATSUMI、私たちのお店に来るお客様って、どんなディズニーキャラクターのどんな商品があるのか、事前に期待して店にくると思うの。そのお客様の期待に、私たちが最高のおもてなしで応えることが大切なのよ。
来店したお客様の欲しいものを探してあげたり、望んでいることに応えてあげるのは、当たり前のこと。
それだけじゃなく、もし欲しいものが見つかったら、“いつ、どんなときにこの商品を使うのか”とか、誰かへのプレゼントとして商品を買ってくれたお客様なら“どんな場所で、どのタイミングでそれを渡すのか”などを、お客様と一緒になって考えてあげること。そうやって、お客様が楽しくお買い物ができるお手伝いをしてあげるのよ。
そうするとね、お店の雰囲気や働いているキャストのサービスに感動してくれる。期待以上のサービスを受けたなと思って、楽しく買い物ができる。そして、お店を出ても笑顔で帰っていくよ。
これがね、お客様の期待をはるかに超えるサービス=エクシード(超越)なのよ」

お客様の期待に応えるだけでなく、期待を「はるかに超える」サービスを提供しようと考える。
「えっ、ここまでしてくれるの?」
「うわぁ〜、嬉しい」
とお客様に喜ばれるサービスをめざす。
お客様の期待が高いのは、ディズニーというブランドや施設、商品に魅力があるからだけではありません。それらの魅力が曇らないように日々メンテナンスに励むキャストがいること、そして、期待を持って訪れたお客様に、期待をはるかに超える接客をしようと働くキャストの想いがあってこそなりたっているのです。

お客様の「期待」、これほどまでに大切に想っているでしょうか?



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[第3章 大切に想う気持ちをお客様に重ねて]より


あえて「売らない」ことも大切なんだ



◎お土産に風船を買って帰りたい

私は大人になったいまでも頻繁に、ディズニーランドに行きます。コンサルタントとしての勉強やクライアントさんを連れての実地研修といった「仕事」の一環でいくこともありますが、ほとんどは純粋に「遊び」です。
その日も友人と朝から丸一日、ディズニーランドで遊んでいました。そして、まもなく閉園時間が近づいてきたときのこと。

「加賀屋さん、帰りにお土産屋さんに寄って買い物したいんだけど……」
「いいよ。ゆっくり買い物してね。外にあるベンチで待ってるよ」

ディズニーランドに来た記念にお土産を買って帰りたいというのは自然な気持ちです。しかし私は毎週のように来ているので、なにか新しいアイテムが発売になったなどということがなければ、お土産を買うことはありません。
この日もとくに買いたいものはありませんでした。なので私はお店の外で待っていることにしたのです。

友人が買い物を終えるのをベンチに座って待っていると、私の隣で同じように座って一休みしていたお父さんと小さな女の子のふたり連れがいました。
そのお父さんが、娘さんに声をかけます。

「夢ちゃん、風船買って帰りたいんだよね。ほら、買っておいで」

お父さんは千円札を女の子に渡しました。女の子はすごく嬉しそうにお金をしっかり握りしめて、風船を販売しているお姉さんのところへ走っていきます。
風船販売のお姉さんは走って来る女の子を見て、すぐに腰を低く落として女の子を暖かく迎えています。

お〜!! 女の子の目線と合わせてお話をする。俺もディズニーストアやアメリカのディズニーで働いていたとき、ああいうふうにやっていたなぁ〜。
う〜ん、微笑ましいシーンだ。

その光景を眺めながら、私は自分がキャストだった頃のことを思い出していました。
お客様と目線を合わせること、とくに相手が小さな子供の場合は目の高さが同じになるように腰を落とし、威圧感を与えないようにすることは、お客様と友好的な関係をつくるうえでとても大切なのです。

◎風船は飛行機の中に持ち込めないから

女の子と風船販売のお姉さんは、すごく仲良くお話をしている様子です。
ディズニーランドでたくさん遊んで、最後に風船を買って家に帰ったら、あの女の子にとって今日1日がとっても楽しい思い出になるなぁなどと思いながら眺めていたのですが、しばらく経つと女の子は、なぜか風船を買わないまま、お父さんのところへ戻ってきました。

あれ? なにも買わずにお父さんのところに戻ってきたぞ。
いったい、なにがあったんだぁ?
風船はそんなに高いものじゃないから、千円じゃ足りないはずはないし、子供だから商品は売らない、なんてこともないよなぁ〜??

不思議に思って見ていると、女の子がお父さんに話しかけます。

「お父さーん、風船のお姉さんが呼んでる〜」

やっぱり、なにかあったのかなと、私も少し心配になりながら様子をうかがっていると、風船のお姉さんが申し訳なさそうな表情でお父さんに近づいてきて、声をかけました。

「こんばんは。いま、夢ちゃんとお話をしていたんですが、今日はホテルに宿泊されるそうですね」
「ええ、娘がすごく楽しみにしていて、1日じゃもったいないからホテルに泊って、2日間、遊んでいくことにしたんですよ」
「そうですかぁ、いいですね。
夢ちゃんと家族のみなさんは、北海道から飛行機でディズニーランドへ遊びにいらしたそうですね。お帰りも飛行機ですか?」
「あっ、はい」
「そうですかぁ……。
実は風船のことですが、飛行機に乗る際、機内に持ち込みするときは、気圧の関係で、風船の中のガスをすべて抜かなくちゃいけないんですよ。
風船をお売りしたいのですが、夢ちゃんのお気持ちを考えると、販売していいものか判断できなかったので、相談しようと思いまして……」

わ〜、そうかぁ。飛行機に乗るときにはガスを抜かなきゃいけないんだぁ。
ここで女の子に風船を売ったら、いまは風船が手に入って嬉しいかもしれないけど、飛行機の中できっと悲しがるもんなぁ。そこまで考えてあげてるんだぁ。

風船販売のキャストさんが、まさかそのようなことまで気遣いをするとは思わず、私はとてもびっくりし、また感動しました。

風船のお姉さんから説明を受けたお父さんは、風船を家には持ち帰れないことを、女の子にわかりやすく話しているようでした。
その後、お姉さんからの提案があったのか、その子はたくさんの風船をバックに、にっこり笑顔で、お父さんに写真を撮ってもらっていました。そして風船は購入せず、嬉しそうにお姉さんにバイバイと手を振って帰っていきました。

そうかぁ、写真の中の風船なら、飛行機に乗ってもしぼませずに、ずっと思い出の中にとっておけるもんなぁ。

◎売っておしまいではないんだ

そういえば20年ほど前に、私も同じような経験をしたことがありました。
自分でビデオ撮影したディズニーランドのパレード等を映画館のように大きな画面で見たいと思い、家庭用ホームシアターのプロジェクターを買うことにしたのです。そのために一生懸命アルバイトをしてお金を貯め、いざ、秋葉原へ。

「すいません! プロジェクターください!!」

勢い勇んで店員さんに声をかけます。
私の頭の中は、プロジェクターのことでいっぱいでした。
そんな私に店員さんは、落ち着いて応対してくれます。

「はい、ありがとうございます。
お客様、プロジェクターの画像は、ご覧になったことはありますか?」
「いえ……」

買いたい気持ちばかりが先に盛り上がっていて、私はまだ、実際に品物を見たことはありませんでした。そんな私に店員さんは、詳しくシステムを教えてくれて、画像も出して見せてくれました。

「お客様のご予算内ですと、こちらのプロジェクターになりますね。
この機種ですと、19インチのテレビぐらいのサイズでは問題ありませんが、大画面での映写になると画像が粗くなってしまいます。ご覧ください」

あれ? なんかイメージと違う……。

たしかに、大きく映し出された画像は粗く、まるでモザイクがかかったようになっています。これでは、とても私が求めているクオリティではありません。

なんだよ〜、せっかくお金を貯めて来たのに。ウチで大画面の夢がぁ……。

大きな期待とともに勢い込んで買いに来た分、余計に落ち込んでしまいました。
そんな私の様子を察したのか、店員さんの説明が続きます。

「お客様、同じ金額なら、いまはテレビのほうが高画質で見られますよ。
こちらのテレビは……」

私の予算と要望を聞いて、それに合った製品をこと細かく、私が納得いくまで説明してくれました。
その店員さんのおすすめで、32インチのテレビを購入。家に帰って設置し、さっそくビデオを再生すると、綺麗な画像で大きくディズニーランドのパレードが映し出されました。

あー、すぐにプロジェクターを買わなくて、ホントによかった。
もし、店員さんのアドバイスがなかったら、あのまま買って、ウチに帰ってからガッカリするところだったよ!

親切に相談に乗ってくれた店員さんに、私は心から感謝しました。

買いたいというお客様に商品を売ることは簡単です。
でも、売ってしまえばそれで終わりではないんです。買ってくれたお客様の、その後のことまで考えて、本当に売っていいものかどうかを見極めるのも、サービスの大切なポイントなんですね。そのうえで「売らない」という選択をすることも必要なんです。

その結果、その場では売上がでなかったとしても、お客様とのあいだにはお金では買えない信頼が生まれます。そういう心遣いが次に繋がっていくのだと思います。現に、私はいまでもその電気屋さんの常連ですから。

お客様を思いやる気持ちが、「また利用したい」につながるんですね。



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──続きは書籍でお読みください──




まえがき もくじ 本文より




加賀屋克美(かがや・かつみ)

1972年1月31日東京生まれ。18歳から5年間、東京ディズニーランド(オリエンタルランド)でアトラクションキャストとして勤務したのち、ディズニーストアに転職。商品販売キャストとして5年間勤務するうちの1年は、本場アメリカのディズニーワールド内にあるディズニーショップに配属。ショップでの勤務と同時に、アトラクションキャストとしても働く。日本帰国後は、タリーズコーヒージャパンや地元のラーメン屋で接客や店舗管理・運営の修行、さらには遊戯施設の運営・メンテナンスの会社を経験したのち、2005年に遊戯施設や商業施設の運営コンサルティング会社・加賀屋感動ストアーマネージメントを設立。レジャー施設の現場に一緒に入りサービス向上のアドバイザーをするかたわら講演活動も積極的に行ない、日米のレジャー施設で学んだ感動のサービス体験談を全国に向けて発信中。


■website■
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