物流業界の新常識


表紙    表紙     表紙    表紙

大滝俊一・著 定価1680円(本体1600円+税5%) 2008年2月9日初版発行



全国の有名書店にてお買い求めになれます。
こう書房から直接お買い求めになりたい場合は、「書籍の注文」ページをご覧ください。



株式会社 こう書房
東京都新宿区矢来町112
第2松下ビル
TEL:03-3269-0581




まえがき もくじ 本文より




まえがき



  は じ め に

世の中に物流業界の入門書・解説書は数多くあります。かくいう私も、経済雑誌の記者として数年前に陸運・海運・空運など運輸・物流業界の担当となった際、取材の下調べや記事執筆の参考資料として、さまざまな関連書を読みあさったものです。

もっとも、本書の1章でも詳しく触れているように、物流業界は2005年を境にかつてない地殻変動に見舞われ、陸運・海運・空運といった従来の業態を突き抜けた「合従連衡」(21ページ参照)の渦に巻き込まれています。物流業界は1990年代頃までは運輸省(現・国土交通省)の有形・無形の各種規制によって既存の事業者が守られ、そこで活躍するメインプレーヤーの顔ぶれも大きく変わることはありませんでした。しかし、最近の物流業界再編や合従連衡の動きの中で、陸・海・空運などの各業態や各主要企業の位置づけは一変しました。激動のさなかにある物流業界の最新の全体像をとらえるには、結局、既存の入門書や解説書に頼るだけではなく、自ら足を使って取材をし、各企業・団体の発表する膨大なニュースリリースなどを逐一集めて読みこなすほかなかったのです。

本書の執筆にあたっては、そうした筆者自身の経験を背景に、物流業界のメインプレーヤーである個々の企業という切り口から書き進めていくことに力を注ぎました。

まず1章では最近の物流業界合従連衡の流れを見たうえで、2章では陸運・海運・空運・フォワーダーなど主要業態の役割を概括。各論として、3章では陸運、4章で海運、5章で空運、6章で日本郵政と欧米の大手インテグレーター(統合的な国際物流業者)について詳述しました。また、物流業界にはこの「フォワーダー」「インテグレーター」のように業界外部の人々にとっては一見とっつきにくい専門用語が多く登場します。そこで10〜12ページには、物流業界を読み解くために不可欠なキーワードについて、基本的なビジネス用語(売上高、営業利益、連結子会社など)を含めて簡単に解説しました。

なお、本書はこう書房から2001年に刊行された『医薬品業界 知りたいことがスグわかる!!』(05年に改訂新版)に続く、筆者にとっては2冊目の業界研究書となります。

物流業界と医薬品業界に同時に興味を持たれる読者はそれほど多くないでしょうが、職業がら、さまざまな業界を外からウオッチしてきた筆者にとって、この2つの業界は1冊の本にまとめてみたいと思えるだけの厚みと面白みを持つ業界だったと思います。

本書が物流業界の道案内として、少しでもお役に立てれば幸いです。

2008年1月                          大滝俊一




まえがき もくじ 本文より




目次



 はじめに
 物流業界を読み解くためのキーワード
第1章 物流業界でも陸・海・空を超えた合従連衡が本格化
「黒子役」からグローバル経済の主役に浮上
 ●自動車産業に見る物流業界の役割
 ●グローバル化で物流業界も進化を求められる
日本でも本格化し始めた物流業界の合従連衡
 ●合従連衡の先陣を切った商船三井と近鉄エクスプレス
 ●日本郵船は日本貨物航空を子会社化し空運に本格進出
 ●宅配便の差別化狙い佐川急便は国内貨物航空会社を新設
 ●「眠れる獅子」日本郵政が物流再編に参戦
 ●ヤマトHDは自前主義から転換し日本郵船と提携
 ●ヤマトHDとセイノーHDを軸に陸運各社は呉越同舟も
日本・アジア市場狙い激突する日系・外資系物流大手
 ●物流合従連衡を促した空運の希少性
 ●アジア・日本になだれ込む欧米インテグレーター
第2章 陸・海・空から倉庫・商社まで物流業界進化論
「運輸」「物流」「ロジスティクス」はここが違う
 ●伝統的な「運輸」から幅を広げた「物流」
 ●「ロジスティクス」から生まれたナポレオンの“缶詰”
「モノ運び」の主役を担う陸・海・空運業
 ●陸運 ―― ラスト・ワンマイル担う国内物流の主役
 ●海運 ―― 原材料から製品まで国際大量輸送の中核
 ●空運 ―― 旅客はテロや不況で打撃受けても貨物は安定成長
「輸送手段を持たない物流業」の役割が拡大
 ●フォワーダー ―― 企業向け国際輸送の代理店
 ●3PL ―― 日本では「2.5」PL業者が主流
 ●倉庫 ―― 保管だけではなく3PLなど総合物流を志向
 ●商社 ―― 商社機能に不可欠な物流業務をグループ外へ展開も
燃料費から人件費まで、陸・海・空運の収益構造とは
 ●燃料価格の変動が収益に大きな影響を及ぼす陸・海・空運業界
 ●人件費比率が大きい陸運、外国人船員活用で人件費を削減した海運
第3章 陸運業界の最新動向 ―― 規制緩和と郵政民営化で競争激化
陸運業界の現状、業界勢力図はこうなっている
 ●海運・空運に出遅れるが陸運業界の合従連衡も急進展
 ●大手3社とそれ以外に2極分化の可能性も
日本郵政の本格参戦で競争激化する宅配便・メール便
 ●宅配便で先行したヤマトHDに新規参入の佐川急便が激突
 ●日本郵政の大攻勢で宅配便シェアに変動も
 ●コンビニ争奪戦に続き、日本郵政はペリカン便を“吸収”
 ●ヤマトHDは日本郵政の“本丸”の郵便に殴り込む
 ●次の主戦場「国際宅配便」では海外大手が圧倒的
 ●全日空との提携で日本郵政が国際宅配便への本格参入を模索
陸運大手の実力はこうなっている
 ●日本通運 ―― さながら物流の総合商社
 ●ヤマトホールディングス ―― 宅配便で先行、メール便は郵政と死闘
 ●佐川急便 ―― 企業向け宅配便でヤマト急追、空運にも参入
 ●セイノーホールディングス ―― 路線トラック首位、ヤマトHDと提携
 ●日立物流 ―― 物流子会社で最大手、3PLで有力
第4章 海運業界の最新動向 ―― かつてない大活況受け物流再編を主導
本格化した物流合従連衡を海運大手がリード
 ●80年代からの苦境を乗り切り、陸運・空運を上回る好業績に
 ●「海運集約」などM&Aの豊富な経験で先行
 ●コンテナ船では海外企業とのアライアンスも経験
 ●海外の海運大手はより強力なM&A路線にカジを切る
新造船と運賃市況が決める海運業の経営環境
 ●業績拡大の決め手となる新造船投入
 ●「運賃市況」が海運会社の収益を大きく左右
 ●「総合物流」戦略で海運大手の対応が分かれる
海運大手の実力はこうなっている
 ●日本郵船 ―― 新造船投入と空運買収で国内物流業界の売上首位に
 ●商船三井 ―― 海運への経営資源集中で利益水準は物流業界トップ
 ●川崎汽船 ―― コンテナ船のウエイト大、総合物流路線を模索
第5章 空運業界の最新動向 ―― SCM普及で航空貨物のニーズ高まる
空運業界の現状、業界勢力図はこうなっている
 ●サプライチェーン・マネジメント普及で潜在力大きい空運
 ●旅客にくらべ貨物航空ではやや出遅れた国内大手
 ●日本航空が先行、シェア奪取狙う日本貨物航空と全日本空輸
 ●狭い日本でスピード勝負、三度目の正直狙う国内貨物航空
空運大手の実力はこうなっている
 ●日本航空 ―― 国際貨物で先行、国内貨物では佐川急便と提携
 ●全日本空輸 ―― 国際貨物では出遅れるが日本郵政と電撃提携
 ●日本貨物航空 ―― 日本郵船が持株比率を増やし子会社化
第6章 日本郵政、インテグレーターの最新動向 ―― 物流再編の台風の目に
民営化で物流市場に触手伸ばす日本郵政
 ●郵政公社は07年10月に日本郵政株式会社に衣替え
 ●通常郵便は頭打ち、ゆうパックは日本通運との事業統合に活路を探る
 ●B2Bの国際物流参入へ、全日空、TNTと相次ぎ提携
 ●日本郵政(郵便事業会社)―― 民営化を契機に物流本格進出狙う
アジア市場に虎視眈々 ―― 4大インテグレーターの実力比較
 ●「エクスプレス便」を武器にアジア進出急ぐインテグレーター
 ●インテグレーターによってエクスプレス便の採算性には格差
 ●次の収益柱を目指すロジスティクス事業では温度差も



まえがき もくじ 本文より




[第1章 物流業界でも陸・海・空を超えた合従連衡が本格化]



「黒子役」からグローバル経済の主役に浮上



●自動車産業に見る物流業界の役割

物流業界とはどのような業界か。「産業の動脈」と呼ぶ人もいれば「黒子役」「縁の下の力持ち」と表現する人もいる。

この業界には「陸運」「海運」「空運」といった自ら輸送手段を保有して貨物を運ぶ伝統的な業種から、「フォワーダー」「3PL(サードパーティ・ロジスティクス)」など自らは必ずしも輸送手段を保有する必要のない業種や、業態的には不動産に近い「倉庫」まで含まれる。さらには異業種の「商社」やエレクトロニクス・自動車などの「メーカー」、民営化の是非で大揺れに揺れた「郵政(郵便)」までさまざまな業種が関わっている。

こうした物流業界の全体像を捉えるのは容易ではない。まずは実際の産業との関わりから見てみよう。

たとえば自動車産業のケース。日本の代表的な主力産業である自動車産業は、他のいかなる産業にも増して、素材産業からエレクトロニクス産業、エネルギー産業、流通業、金融業まで幅広い産業が関わっている。物流業界も例外ではない。

自動車を生産するうえでもっとも基礎となる素材は鉄鋼だが、その原料となる鉄鉱石や石炭は、オーストラリアや中南米など海外の産出国から「バラ積み船」と呼ばれる「船」で鉄鋼メーカーの製鉄所に運ばれてくる。鉄鉱石や石炭は非常に重くかさばる貨物であり、とくに海外から海を越えて運ばれる場合には、船以外で運ばれることはまずない。そこで鉄鋼メーカーの製鉄所は港湾に面した場所にあり、鉄鉱石や石炭を運ぶ最大20万重量トン超クラスの船からも積み卸しできる独自の港を備えていることが多い。

製鉄所で生産された各種の鉄鋼製品は、船で運ばれることが依然多い。ただ、鉄鉱石や石炭にくらべればかさも重さもかなりスリム化されているから、日本国内など地続きの場所に運ぶ場合には「鉄道」や「トラック」も組み合わせて自動車部品工場などに運ばれる。

そして自動車部品工場でたんなる鋼材から鋳造・鍛造部品や精密部品などに加工されると、いちばん最初のスタート時点の鉄鉱石や石炭にくらべても、加工される直前の鋼材とくらべても、たとえば1キログラムあたりの価格は数十倍、数百倍、モノによっては数万倍以上の高付加価値製品に仕上げられている。

これを海を越えて海外の自動車組み立て工場に輸送する場合、船に載せて運べばはるかに運賃は安いものの、日本から北米に運ぶとなると半月前後もかかる。それを「飛行機」で運ぶと1キログラムあたりの運賃は船にくらべて1ケタまたは2ケタ多く必要になるが、世界中どこでも1日あれば届けられる。いわば「時間をカネで買う」ことが可能になるわけだ。鉄鉱石や石炭などの段階ではムリでも、自動車部品にまで加工したあとなら少々運賃が高くついても十分吸収できることになる。事実、日本や中国などアジア地域から北米や欧州などに自動車部品を運ぶ場合、以前は船を使うことが圧倒的に多かった。しかし最近では、工場における在庫圧縮のニーズや、マーケットにおける商品サイクルの短縮化に対応するために、船だけでなく飛行機も組み合わせて輸送するケースが年々増えている。

自動車部品を組み立てて作られた完成車を工場から販売会社に輸送する際にも、物流業界の果たす役割は大きい。日本から海外に運ぶ場合には「自動車船」と呼ばれる専用船を使い、港と内陸部との間で自動車を運ぶためには専用トラック・トレーラーや専用列車などを使う。いくら自動車という製品は道路さえあれば自走してどこへでも持っていけるとはいえ、雨や土ぼこりで汚れたり、まして傷がついたりすれば新車としての商品価値はなくなってしまう。そこで、やはり陸上でも専用トラック・トレーラーや専用列車を組み合わせた輸送が基本となる。ちなみに、コンテナの中などにぎっちり詰められる自動車部品とは違って、完成車となると車内スペースなどのすき間が多く「空気を運ぶ」ようなことになってしまうため、試作車などの特殊輸送ニーズを除き、運賃の高い飛行機で運ぶという発想はいまのところない。

実際のところ、日本の自動車産業は国内で生産活動のすべてがまかなわれているわけではなく、欧州や米国などの最終消費地に届くまでの間に、日本製の部品を使ってアジア・東欧・中南米など第三国でノックダウン組み立てなどの生産工程が加わることも多い。原材料や部品、完成車の輸送経路はもっとはるかに複雑であり、物流業界の関わる余地がますます大きくなる。

●グローバル化で物流業界も進化を求められる

自動車産業に見られる、こうした調達、生産、販売のグローバル化が近年急速に進んだことによって、物流業界に求められる役割は劇的に変化している。たんにトラックや船や飛行機を使って工場と工場の間、あるいは工場と市場の間で「モノを運ぶ」だけでなく、原材料の「調達」から部品・最終製品の「生産」、そして最終消費地での「販売」まで、もっとも効率よくスムーズにモノを動かすためのしくみが求められてくる。

生産や販売ではノウハウも人材も豊富なメーカーや流通業界も、複雑に絡み合った陸・海・空運のネットワークを縦横無尽に使いこなすという物流でのプロかというと、必ずしもそうではない。日本で部品を作り、中国の工場で組み立て、全米の販売店舗網にあまねく製品を供給しなければならない場合、海を越えて運ぶための輸送機関は船でよいのか、飛行機を選べばよいのか、陸上では貨物鉄道を使うべきか貨物トラックを使うべきか。製品の小分けや箱詰め・付属品添付などの「流通加工」をどこでどのように行なうべきか。「通関」すなわち税関での手続きや倉庫での「保管」をどうすべきか。――などなど、企業活動のグローバル化により荷主企業が物流について頭を悩まさなければならない事柄はますます増えている。さらには、いつどこにどんな荷物をいくつ運ぶのか、あるいは、いま輸送中の荷物がどこの港湾や空港や船や飛行機の中にあり、到着時間は予定どおりなのか遅れる可能性があるのか、といった「物流情報」を正確に把握しリアルタイムで荷主に提供する機能さえ、物流業者には求められるようになってきた。

いわば、「陸運」「海運」「空運」に加え、「通関」「保管」「流通加工」から「物流情報」の提供まで、物流業者には従来の業態の枠を超える進化が求められている。



ページ見本



[第2章 陸・海・空から倉庫・商社まで物流業界進化論]


「運輸」「物流」「ロジスティクス」はここが違う



●伝統的な「運輸」から幅を広げた「物流」

運輸、物流、ロジスティクス、そしてインテグレーターと、ひと口に物流ビジネスといっても、意味の似通ったさまざまな言い方が飛び交う。

陸運、海運、空運といった伝統的な業態なら、どのような輸送機関を用いてのビジネスモデルかは容易に見当がつく。しかし、自ら輸送手段を持たないフォワーダーはもとより、単純にモノを動かすのではなく、保管したり(倉庫業)、積み替えたり(荷役、港湾運送)、荷主に代わって流通段階でなんらかの加工を加えたり(流通加工)、どの物流業者を選ぶかのコーディネーター的役割も含め物流を一括で請け負ったり(3PL=サードパーティ・ロジスティクス)、ICタグなどを活用して荷物を追跡したり(物流情報システム)といった、荷主の求めるすべての機能・業務が「物流」という言葉の中に集約されている。

「物流」を文字どおり分解すると「物の流れ」になるが、これは陸・海・空運にはなんとか当てはまっても、その他の多種多様な物流の各業態には必ずしも当てはまらない。

この物流という言葉が本書の取り扱う業界全体を含めた比較的広い表現であるのに対し、「運輸」という言い方は、陸運・海運・空運にフォワーダーも含めた、狭い意味での「物の流れ」を担う業界を指す。ただし運輸業界には、物を運ぶ「貨物運送」だけでなく、人を運ぶ「旅客運送」も含まれるため、注意が必要だ。

たとえば陸運では、JR旅客鉄道6社、私鉄、バス、タクシーなどは旅客運送で、日本貨物鉄道(JR貨物)や日本通運、ヤマトホールディングス(ヤマト運輸グループ)、佐川急便などトラック運送会社が物流業に分類される貨物運送業となる。

海運では、日本郵船、商船三井、川崎汽船など大手の主力事業は外航を中心とした貨物運送で、内航のフェリーや外航クルーズなどの旅客船は大手の子会社や内航海運専業会社が担当している。ちなみに国際間を結ぶ外航海運の世界では、ごく短距離の路線や豪華客船を除けば、旅客運送ではもはや飛行機に太刀打ちできなくなっている。

また空運では、日本航空、全日本空輸が旅客と貨物運送を兼業(ただし主力は旅客事業)、スカイマークやエア・ドゥ(北海道国際航空)などが旅客専業、日本貨物航空や新設のギャラクシーエアラインズが貨物専業となっている。

まとめて見ると、「物流」には陸・海・空運の「運輸」のうち「貨物運送」が含まれ、同じ運輸の中でも旅客運送は当然ながら含まれない。本書で扱う「物流業界」とは、運輸の中でも貨物運送業を中心に、倉庫、流通加工、物流情報システムなど伝統的な運輸業には含まれにくい関連業種も広く含んだビジネスを対象にしている。

●「ロジスティクス」から生まれたナポレオンの“缶詰”

物流ビジネスを説明する場合に「ロジスティクス」という言葉がほぼ同義語のように使われることも増えている。ロジスティクス、すなわち英語の「logistics」は、フランス語の「logistique」を語源にしている。19世紀のフランス皇帝ナポレオン1世時代に「兵站=後方支援」を表わす語として使われ始めたといわれる。

戦争を行なう際に、貴族や騎士が主役だった絶対王政期までは、武器も弾薬も食糧も貴族や騎士が自弁で賄うことを義務づけられ、敵地の住民からの強制徴収など不安定な方法で食糧を調達することも多く見られた。しかし、フランス革命によって市民が戦争の主役となり国民皆兵制が導入されてくると、国民総動員の総力戦を勝ち抜くためには、武器・弾薬・食糧を自弁に任せるだけでは足りず、後方支援による組織的な供給が不可欠となってくる。これがロジスティクスのそもそもの始まりだ。

ナポレオン時代のロジスティクスの結実例として、興味深いエピソードがある。軍事用の携行食として、輸送に便利で現地での加工も不要、なおかつ味も栄養も平時の食事に劣らない保存食はつくれないかと、1795年に軍人時代のナポレオンが1万2000フランの懸賞金付きでそのアイデアを募集した。それを受けて1804年にフランス人のニコラ・アペールが発明したのが“缶詰”だったのだ。もっともアペールの発明した缶詰はシャンパン用のガラス瓶にコルク栓をしたもので、割れやすく運ぶのには重いなど実際の戦場ではやや使いづらかった。現在のように金属製容器に入れる缶詰はイギリス人のピーター・デュランドによって1810年に発明された。

それではなぜ、缶詰がロジスティクスや物流戦略と結びつくのか。

まず、定型化された容器が使われる缶詰は、野菜や肉や魚を素材のまま運ぶのにくらべてはるかに運搬しやすい。缶を開けないかぎり腐敗しないから、あらかじめ作り置いて在庫品として保管しておくのにも優れている。缶に詰める前に調理も味付けも済んでいるため戦地で新たに手を加える必要がなく、現代風にいえば「流通加工」済みといえる。ロジスティクス=兵站の概念が認識されはじめた当初から、現代的な意味でのロジスティクスにつながる知恵や工夫の萌芽がすでに見えていたといえる。

こうした軍事的な意味でのロジスティクスを軽視したために一敗地にまみれた例としては、日中戦争から第二次世界大戦にかけての旧日本軍の惨状を見れば明らかだろう。ロジスティクスの黎明期に活躍したナポレオン1世自身も、1812年のロシア遠征において60万人もの大軍を率いながら、兵站=ロジスティクスを軽視した戦略のために総退却を余儀なくされ、その後の没落につながってしまった。

21世紀の国際メガ競争時代に身を置いている国内外のグローバル企業も、それゆえにビジネス的な意味でのロジスティクスの構築に腐心していることはいうまでもない。

つまり物流業界におけるロジスティクスとは、調達・生産・販売のいっそうの効率化・高度化を担うという意味での戦略的物流を指し、たんなる陸・海・空運や倉庫、流通加工などの機能を単品で利用することは意味しない。

実際のところ、そうした戦略的な物流を必要とするのは、個人や個人事業主よりも、グローバルな展開を志向する大企業や中堅・中小企業であることがほとんどだ。そのため、ロジスティクスをあえて日本語訳する場合には、「企業向け戦略物流」などと表現することが多い。



ページ見本



[第3章 陸運業界の最新動向 ―― 規制緩和と郵政民営化で競争激化]


陸運大手の実力はこうなっている



●日本通運 ―― さながら物流の総合商社

陸運最大手で、陸・海・空を含めた日本の物流業界全体のなかで見ても、2005年度に日本郵船に抜かれるまでは連結売上高で首位を独走してきたのが日本通運だ。

1980〜90年代に宅配便事業でヤマト運輸(現ヤマトHD)を急追した「ペリカン便」のイメージが強いが、現在では宅配便を含む陸運トラック輸送(自動車事業)の売上構成比は06年度単独決算ベースで39.8%止まり。近鉄エクスプレスや郵船航空サービスを抜いて業界首位のフォワーダー(航空貨物混載)部門が15.7%と肉薄している。子会社も含め、内航海運や港湾運送、倉庫部門まで陸・海・空を網羅していることから、陸運大手というよりはむしろ“物流の総合商社”といえる。

空運の航空貨物キャリア(貨物航空会社)についてはさすがにグループ内には持たないが、日本郵船傘下の日本貨物航空には5%出資し、全日本空輸と日本郵政の合弁貨物航空運航会社ANA&JPエクスプレスには10%出資。空運最大手の日本航空にも、旅客部門を含めた本体が対象のため出資比率は低いが、0.6%前後を出資する大株主となっている。91年には日本航空やヤマトHDなどと合弁で国内便専用の貨物航空会社「日本ユニバーサル航空」を設立しているが、宅配便などの航空需要掘り起こしには時期尚早だったためか、創業1年で頓挫した経緯もある。

そもそもの発祥は1872(明治5)年に創業した「陸運元会社」にさかのぼる。当時、前島密らが立ち上げた官営郵便事業の発足に伴い、江戸時代から「飛脚」として手紙や小口貨物の配送に携わってきた運送業者の失業問題が表面化。彼らを官営郵便の委託運送業者として組織化したのが陸運元会社だった。

その後、この陸運元会社を母体として、1937(昭和12)年に「日本通運」が設立された。社名の「通運」とは本来、鉄道貨物を利用した利用運送事業を指す。日本通運は戦前から戦後にかけて、この鉄道貨物利用運送事業を独占的に行なってきた。49年に鉄道貨物利用運送業の独占体制が崩れると、同社は陸運トラック運送を皮切りに、倉庫、内航海運、港湾運送、航空貨物フォワーダーなど、海運・陸運その他の各分野に進出。宅配便にも、先行したヤマトHD(76年にサービス開始)に1年遅れの77年から「ペリカンBOX簡単便」の名称で参戦している。

世界的に見ても物流マーケットでの存在感が大きい日本通運だが、宅配便に経営資源を集中しているヤマトHDや佐川急便にくらべ、連結売上高に対する営業利益率はやや低い。物流の総合商社にも、それなりの“選択と集中”が課題となっている。

そこで、たとえば宅配便事業については大口取引先からの安値受注を見直し、集荷・配送面で日本郵政との連携を重視するなどの採算重視戦略に転換。07年10月には日本郵政と宅配便新会社を共同出資で設立することを発表したが、新会社への日本通運の出資比率は50%未満に留まり、50%超を出資する日本郵政の子会社となる。事実上、宅配便事業からは一歩引くかたちとなりそうだ。

一方、国内で首位、世界でも2位と競争力の強い航空貨物フォワーダー事業については、経営資源集中のひとつの柱に位置づけている。07年12月にはフォワーダー専業の近鉄エクスプレスとともに、全日本空輸を巻き込むかたちでエクスプレス便の合弁新会社を設立することを発表。強みを持つ国際物流のノウハウを生かせる分野だけに注目されそうだ。

●ヤマトホールディングス ―― 宅配便で先行、メール便は郵政と死闘

ヤマトホールディングス(ヤマトHD)は宅配便で圧倒的シェアを誇るヤマト運輸の純粋持株会社だ。従来はヤマト運輸本体がグループ全体を統括してきたが、05年11月に宅配便事業を新「ヤマト運輸」として分社化(子会社化)したうえ、グループ経営の中枢機能だけ残した旧ヤマト運輸がヤマトHDに衣替えした。

純粋持株会社とは、このように実際の事業部門を分社化し、子会社(多くの場合100%出資)として傘下に抱え、自らはグループ全体を統括する司令塔だけの役割を果たす企業をいう。陸運業界で純粋持株会社体制への移行を最初に打ち出したのはヤマトHDであり、現在では佐川急便グループがSGホールディングス、西濃運輸グループがセイノーホールディングスへと純粋持株会社体制にシフトしている。

よく知られているように、ヤマトHDは宅配便ビジネスでも日本で先駆者だ。同社の2代目社長だった故・小倉昌男氏が自著の中で述べているように、出張で訪れた米国・ニューヨークの街角で、たまたま目にしたUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)の小口宅配トラックが、そのヒントになったという。

71年に同氏が社長に就任した当時のヤマトHDは、三越や松下電器産業など企業向けのB2Bトラック輸送を主力事業としていた。まとまった大口受注を継続的に取れるのはメリットだったが、大荷主への依存度が高く、しかも彼らの物流コスト削減ニーズが高かったために、運賃の面ではなかなか採算の取れるビジネスになりにくかった。UPSが配送していた小口荷物は集荷や配送の手間はかかるものの、貨物1個あたりで料金を設定されており、大荷主との相対交渉による運賃引き下げについてはそれほど心配する必要がない。つまり、トラック1台に満載した場合、大荷主の荷物よりも、宅配便の荷物のほうがより多くの運賃を受け取ることが可能になる。

ヤマトHDが「クロネコヤマトの宅急便」のサービスブランド名で宅配便ビジネスを始めた76年1月20日の初日には、集荷できた宅配便はわずか11個にすぎなかった。それが06年度には同社だけで年間11億6982万個、競合他社も含めた民間宅配便全体では同29億0794万個にも達する巨大マーケットが築き上げられている。

陸運大手・準大手各社とくらべても、ヤマトHDの06年度連結売上高に対する営業利益率は5.8%とダントツで、上場企業では日本通運の2.7%、セイノーHDの2.4%、福山通運の2.1%などを大きく上回る。ヤマトHD以外の各社では宅配便が必ずしも事業の中核ではなく、大口配送向けの路線トラックの比率が高いため、大荷主の運賃引き下げ圧力にさらされていることなどがその背景にある。

もっとも、ヤマトHDがほぼ独占していた宅配便市場にも、98年に“参入”した佐川急便が強力なライバルとして浮上。さらに、03年に公社化した日本郵政がジリ貧の通常郵便を補うために郵便小包=ゆうパックの強化策を次々に打ち出したことから、個人向けの取扱窓口となるコンビニエンスストアや、ギフト配達需要の大きい百貨店・スーパー・通信販売会社などをめぐって、価格面を含む競争が年々激化している。

そこでヤマトHDは、宅配便がまだ高い収益力を保持しているうちに、第二、第三の事業の柱を立ち上げようと模索している。そのひとつが97年にスタートした「クロネコメール便」だ。宅配便よりも重量が軽い(最大1キログラム以下)通販カタログや雑誌・書籍、小物雑貨などを、宅配便よりも割安な料金(サイズや重量によって異なるが、07年現在で80〜240円)で配送するサービスだ。受け取り時に確認印やサインが必要なために不在時は再配達の手間がかかる宅配便にくらべて、メール便は配達先の郵便受けに投函するだけで配達終了となる。宅配便ほどサービス面での精度を要求されないため、正社員のセールスドライバーではなく、パート・アルバイトによる配達が可能になり、人件費が安く済む分、料金も格安に設定できる点に秘密がある。

メール便は宅配便とは本質的に別物のサービス商品であり、むしろ、日本郵政の扱っている通常郵便のうち、冊子小包(カタログや書籍)や第三種郵便(新聞や雑誌)などの「非信書便」と直接競合している。いわば、宅配便マーケットではガリバー・ヤマトHDに対して日本郵政がチャレンジャーの立場になるが、メール便では逆に、独占事業体だった日本郵政にヤマトHDが挑戦を仕掛ける立場に立っている。

06年度時点におけるヤマトHDのメール便引き受け個数は19億7018万通に達し、日本郵政の非信書郵便(冊子小包+第三種郵便)の同26億3712万通に肉薄しつつある。ヤマトHDが06年10月に踏み切ったメール便の実質値下げを含むリニューアルによって、どこまで日本郵政のシェアに迫れるかが当面の焦点といえる。

もうひとつ、ヤマトHDがメール便と並んで力を入れているのがロジスティクス、つまり企業向けのB2B物流だ。宅配便事業のなかにも書類・部品・商品配送などB2Bの企業間物流はかなり取り込まれているが、ヤマトHDのロジスティクス事業には、もう少しかさばる重量物の配送や、サードパーティ・ロジスティクス(3PL)などトラック輸送以外のサービスも含めた物流ニーズへの対応も含まれている。

とはいえ、あくまで国内ネットワークしか持たないヤマトHDには、企業の調達・生産・販売のグローバル化に対応するには限界があった。そこで、06年5月に海運業界トップの日本郵船との資本・業務提携を発表。両社グループ合わせて、陸・海・空運を網羅したネットワークを武器に、企業物流の開拓で協力していくことを明らかにした。国内の末端までの陸運ネットワークについてはヤマトHDが担当し、海運のコンテナ船は日本郵船、空運の国際航空貨物については日本郵船傘下の日本貨物航空がそれぞれ担当する。航空貨物や海上貨物のフォワーダー(集荷・混載)については、郵船傘下の郵船航空サービスとヤマトHDの企業物流子会社であるヤマトロジスティクスが直接提携し、06年10月からは共同混載をスタートさせている。

こうした非宅配便事業の育成を進めるなかで、ヤマトHDの06年度連結売上高1兆1615億円に占める宅配便の比率は65.5%の7605億円と依然圧倒的ながら、メール便は11.2%の1296億円、企業物流のロジスティクス事業は7.9%の913億円とそれなりの事業規模に育ってきた。ただ利益水準では、デリバリー事業(宅配便+メール便)の06年度部門営業利益433億円のうちほとんどが宅配便による利益で占められており、ロジスティクス事業の部門営業利益も37億円とケタ違いに少ないのが現状だ。売上のみならず、利益水準の面でも、メール便とロジスティクスを収益性の高い事業に育て上げていくことが、ヤマトHDの当面の課題だ。

●佐川急便 ―― 企業向け宅配便でヤマト急追、空運にも参入

陸運3番手の佐川急便の主力事業は宅配便で、06年度の国内シェア(日本郵政含む)は32.4%と、首位・ヤマトHDの36.8%に対し、ほぼ互角の戦いとなっている。

ただし、ヤマトHDの宅配便事業が一般消費者を志向したC2C(個人→個人)から出発したのに対して、佐川急便はB2B(企業→企業)の企業間小口貨物から出発したため、宅配便マーケットの草創期である70〜80年代には両社の競合場面はそれほど多くはなかった。というよりも、佐川急便が正式に宅配便に参入したのは98年になってからのことであり、宅配便大手としては最後発組にあたる。

佐川急便は現在でもC2Cの宅配便はほとんど扱っておらず、一般消費者から集荷する窓口も持たない。しかし、80〜90年代に宅配便が、個人向けのC2Cよりも、企業向けのB2BやB2Cに成長の可能性を見出すようになると、顧客企業の現場で佐川急便とヤマトHDのセールスドライバーの集荷競争が激化したといわれる。

B2B、B2C分野に特化はしていたものの宅配便とほぼ同水準の小口貨物配送サービスを行なってきた佐川急便は、98年3月に旧運輸省の認可を得て、社名と同じ「佐川急便」(07年3月からは「飛脚宅配便」に改称)のブランド名で宅配便に参入。翌年には早くも宅配便2強の一角だった日本通運を抜き、シェア2位の座を奪取した。

佐川急便のそもそもの発祥は、57年に故・佐川清氏が京都―大阪間で創業した「飛脚業」にさかのぼる。企業向けを主体に、小口貨物をドア・ツー・ドアで配送するというビジネスモデルは、ヤマトHDの「宅急便」開発以前からほぼ確立されていた。しかし、全国展開を図るなかで、各地に「東京佐川急便」「大阪佐川急便」「九州佐川急便」など、のれん分け的な関係会社を設立することでサービスの網の目を埋める戦略を採用。その結果、グループ統治が希薄になり、91年には政治家への献金などをめぐって、いわゆる「東京佐川急便事件」が起き、同社はグループ戦略の転換を迫られた。

このため、92年5月には、まず、京都に本拠を置く佐川急便本体を軸に、大阪・北陸・中京・東京・北関東の各社を合併。94年9月には、さらに九州・中国・四国・東北などの各社と合併し、佐川急便本体によるガバナンス(統治)体制を確立した。なお、06年にはグループの持株会社・SGホールディングスを設立し、ヤマトHDやセイノーHDと同じ純粋持株会社体制に移行している。

こうしたなかで、同社の得意とするB2B、B2Cの小口貨物配送サービスの認知力をアップさせる目的で進められたのが、“宅配便”への参入だったといえる。

佐川急便は同業大手と異なり、現在も株式非上場方針を貫いているため、メディアなどへの露出度は日本通運やヤマトHDにくらべればやや物足りなかった。しかし05年以降に物流合従連衡が本格化してからは、他社に先駆けての動きが目立っている。

まず05年5月に国内貨物航空新会社のギャラクシーエアラインズを設立。同社にはその後、航空業界で国内最大手の日本航空が10%出資。運航・整備面での協力も日本航空から取り付けた。ギャラクシーエアラインズの初便就航は06年10月にずれ込んだが、貨物便スペースの一部に日本航空が集荷した荷物を載せて運ぶ「コードシェア」(共同運航)も開始している。ギャラクシーエアラインズには、大手商社の三井物産や住友商事なども大株主として加わっており、佐川急便の出資比率は55.0%になっている。

陸運大手では、航空貨物フォワーダー大手でもある日本通運が、日本航空、ANA&JPエクスプレス(全日本空輸系の貨物航空機運航会社)、日本貨物航空(日本郵船の子会社)にそれぞれ一部出資する“全方位外交”を標榜。ヤマトHDも日本郵船との提携を足掛かりに日本貨物航空への出資に踏み切った。宅配便市場への攻勢を強めている日本郵政もANA&JPエクスプレスを全日本空輸と合弁のかたちで設立している。ライバル各社が貨物航空会社との関係強化に走るなか、佐川急便がギャラクシーエアラインズ設立にあたって日本航空との協力関係を築き上げたことの意味は大きい。

ギャラクシーエアラインズを設立した第一の目的は、主力事業である宅配便の競争力強化にある。同社は06年10月、羽田―新北九州、羽田―那覇という九州・沖縄向けの2路線から運航を開始。07年4月からは羽田―新千歳、関西―新千歳という東西2大都市圏から北海道向けの2路線も追加で始めた。九州・沖縄・北海道とも、東京や大阪からは陸運トラック輸送での宅配便翌日配送がほぼ不可能なエリアといえる。

C2Cの個人発個人向け宅配便であれば、翌々日以降に配送がずれても大きな問題はないが、B2B、B2Cの企業発宅配便では、翌日配達が可能になることの意味は大きい。しかし、国内貨物航空輸送を現に行なっている日本航空や全日本空輸では、旅客機のベリー(機体下部などの貨物スペース)を使っての輸送が主となるため、貨物の翌日配送を実行するのに最適な深夜便は設定しにくい。国内旅客便では深夜に出発して深夜・早朝に到着しても現地の交通アクセスや宿泊に難点があり、深夜便のニーズがあまりないためだ。そこに、佐川急便があえて空運子会社を設立する意味があった。

国際宅配便についても、海外インテグレーターとの提携にほぼ依存しているヤマトHDなどに対し、佐川急便は独自戦略を模索している。94年にはDHL(00年からドイツポスト系)と提携し、日本国内での集配は佐川急便が担当、欧米など海外現地での集配はDHLの国際ネットワークを使っての国際宅配便サービスを開始。03年からは中国・上海地区で自前での宅配便事業を開始した。06年12月には中国国家郵政局と提携し、日中間の国際宅配便事業を07年春からスタートすることも発表。中国本土での集配こそ中国郵政側にまかせるものの、輸出入時の通関業務は日本国内も中国国内も佐川急便が担当して、インテグレーターの「ドア・ツー・ドア一貫配送」により近いサービス体制を整える。

なお、国内宅配便でのライバル・ヤマトHDがコンビニでの取扱窓口をめぐって日本郵政と熾烈なシェア争いを繰り広げているのに対し、佐川急便はC2C宅配便を取り扱っていないこともあって、日本郵政と直接対決する場面は見られない。むしろ、メール便については、顧客企業への食い込みでは業界随一の佐川急便が集荷したうえで、配送は日本郵政に委託して「冊子小包」で運ぶというかたちの協業関係にある。

06年度のメール便シェア(日本郵政の第三種郵便と冊子小包を含む)では、日本郵政の53.3%、ヤマトHDの39.8%に対し、佐川急便は1.9%と、一見ケタ違いに少ない。しかし、06年度に佐川が取り扱ったメール便6億4460万通のうち、自社配送の「飛脚メール便」は9607万通であり、日本郵政に配送委託している「飛脚ゆうメール」は5億4853万通にも上る。日本郵政の冊子小包取扱数は06年度で20億4947万通であり、うち4分の1強を佐川急便の集荷分が占める勘定になる。両者の協業効果は大きい。

●セイノーホールディングス ―― 路線トラック首位、ヤマトHDと提携

陸運4位のセイノーホールディングスは西濃運輸グループの純粋持株会社だ。05年10月に旧西濃運輸が事業部門を分社化し、純粋持株会社体制に移行した。

06年度の連結売上高は4494億円で、陸運3位の佐川急便の半分程度。ただし、この中にはトヨタ自動車・日野自動車系ディーラー4社(いずれもセイノーHDが100%出資する子会社)など自動車販売部門の売上が全体の19.0%の855億円含まれる。不動産賃貸やリース、広告代理店などその他の事業も営んでおり、これらを除いた純粋な物流事業は3275億円にとどまる。

物流事業の中身を見ても、セイノーHDの宅配便は「カンガルー便」のブランド名でそれなりの知名度があるが、宅配便市場シェア(日本郵政含む)は06年度でわずか4.2%にすぎず、ヤマトHD、佐川急便、日本通運、日本郵政、福山通運に次ぐ6位に甘んじている。セイノーHDの強みはB2CやC2Cの宅配便よりむしろ、企業間のB2B商業小口貨物の輸送にある。東京―大阪など幹線を輸送する「路線トラック」のネットワークでは業界の草分けであり、随一の実力を持つともいわれる。

同社の路線トラック部門の潜在力は業界内部でも評価が高い。宅配便首位のヤマトHDが、宅配便よりも大口サイズのB2B物流用に開発した「ボックスチャーター」の事業本格化に向けて、まずパートナーに選んだのがセイノーHDだった。ヤマトHDのボックスチャーター事業には、その後、陸運最大手の日本通運や準大手のトナミ運輸、名鉄運輸など13社も資本参加のかたちで加わったが、セイノーHDを最初の合弁相手に選んだ点に、ヤマトHDの同社に対する期待度が表われている。

日本市場開拓を目指す海外物流大手との提携も相次ぎ行なっている。99年にはドイツのシェンカーと業務提携し、02年にはシェンカーと合弁で国際物流を営む西濃シェンカーを設立した。その後、シェンカーの親会社のドイツ鉄道が06年2月にアメリカの物流大手BAXグローバルを買収したことにともない、06年9月にはドイツ鉄道グループ全体とあらためて業務提携を交わすに至っている。

さらに、06年9月には陸運準大手の日本梱包運輸倉庫と業務提携し、合弁会社「S&Nロジスティクス」を設立した。日本梱包運輸倉庫は、陸運企業としては06年度の連結売上高が1481億円と中位クラスにすぎないが、社名にもあるように倉庫や梱包など陸運の周辺分野に強く、流通加工などのノウハウも持つ。

こうした一連の提携の背景には、企業の調達・生産・販売のグローバル化にともない、生産合理化や在庫圧縮、販売機会ロス低減などを物流工程の高度化を通して推進しようとするサプライチェーン・マネジメント(SCM)のニーズへの対応がある。たんに日本国内で陸運輸送を行なうだけでなく、ヤマトHDと合弁のボックスチャーター事業では「ジャスト・イン・タイム」物流の国内ネットワークを構築し、ドイツ鉄道グループとの提携では航空貨物・海上貨物を含めた国際物流のインフラを活用していく。さらに日本梱包運輸倉庫との提携では、流通加工などサードパーティ・ロジスティクス(3PL)につながるノウハウの共有化なども期待できそうだ。

●日立物流 ―― 物流子会社で最大手、3PLで有力

陸運業界、というよりも、3PLを中心とする企業向け物流で国内トップクラスといえるのが日立物流だ。

社名のとおり、総合電機最大手である日立製作所の物流子会社だが、現在は日立グループ向けの売上依存度は連結売上高全体の4割弱まで縮小。医薬品、流通、精密機器向けなど日立グループ以外からの売上が大半を占めている。東京証券取引所などの業種分類では「陸運」業に分類されている同社だが、実際に自社トラックで輸送するウエイトは陸運大手・準大手各社にくらべてかなり少ない。利用運送のかたちで他の陸運会社に配送委託するケースが多く、純粋な陸運企業とはいいにくい面もある。

むしろ、同社の強みは「物流子会社」からスタートしたことそのものにある。同じように物流子会社や物流部門を抱える製造業・流通業など各社が、本業に経営資源を集中して物流合理化を図ろうとする際に、日立物流はその受け皿となりうるからだ。つまり、もともと物流子会社から発祥しただけに、他社・他業態の物流子会社・物流部門の合理化・効率化を実現するためのノウハウにも長けている。

たとえば05年6月には、カー音響大手・クラリオンの物流子会社であるクラリオン・エム・アンド・エルから物流事業を譲り受け、クラリオンの国内物流業務を全面受託。06年12月には化粧品最大手・資生堂の物流子会社である資生堂物流サービスの株式90%を譲り受けて傘下に収め、やはり同社の国内物流業務を一括受注した。

物流子会社による他社の物流子会社・物流部門M&Aの事例としては、アルプス物流(アルプス電気系)によるTDK物流(TDK系)の買収(04年)や、富士物流(富士電機系)によるJUKIやセイコーインスツルの物流子会社買収(00年、04年)などが挙げられる。ただ、日立物流は母体となった親会社・日立製作所のグループ経営規模が大きいだけに、物流子会社のM&Aによる再編でも大きく先行している。

こうした物流子会社のM&Aは、実は物流一括受託に向けた戦略の一環にすぎず、M&Aを伴わない3PL(日立物流ではシステム物流と称している)についても、猛烈なスピードで新規受託を進めている。最近のケースでいえば、精密機器のキヤノン、ニコン、家具のイトーキ、小売りのイオン、ユニー、医薬・医療のシスメックス、参天製薬など幅広い業態を対象に3PLを受託している。日立物流の06年度連結売上高3039億円に占める3PL事業のウエイトは実に7割強にもあたる2190億円にまで成長している。

一般企業のみならず、物流各社との提携にも熱心だ。99年には陸運準大手で小口商業貨物に強い福山通運と提携。イオン向けに新物流システムを共同受注したり、小口輸送を福山通運に受託するなどの協業関係を進めている。日本郵政とも公社化直後の03年5月に早くも提携関係を構築。「ゆうパック」を利用した企業向け物流を共同開拓しているほか、人材の受け入れなど、郵政民営化後をにらんだ動きを見せている。



ページ見本



──続きは書籍でお読みください──




まえがき もくじ 本文より




大滝俊一(おおたき・しゅんいち)

1987年慶應義塾大学法学部卒業後、東洋経済新報社入社。『オール投資』『会社四季報』『週刊東洋経済』などの編集部を経て2007年から『株価四季報』編集長。この間、業界担当記者も兼任し家電、アパレル、化学、医薬品、鉄道、映画などの各業界を担当。陸運・海運・空運など物流業界については2005年から担当。 著書に『医薬品業界 知りたいことがスグわかる!!』(こう書房)、『ゲノムビジネス会社情報』(東洋経済新報社、共著)がある。





業界研究書のページへ戻る 書籍の注文ページへ行く
inserted by FC2 system